『サルージャ、ほらこっちを向きなさい』



(いやだ)



『お前は本当に愛らしいね』



(やめて)



『サルージャ…私の可愛い子』



(いやだ)



『お前は一生』




(い、や)




『私のモノだよ』










 (、 たすけて )










***







「、ッ…!」

寝台から跳ね起きれば全身がぐっしょりといやな汗で濡れていた。荒くなる呼吸を無理矢理落ち着けようと胸元の衣服をキツく掴むがしかし、上手い呼吸の仕方を忘れて一向に落ち着く気配をみせない。


「アリババくん」


ふ、と優しく背中に触れる手に意識が現実へと上がる。ゆっくりと労るように背中を擦られ、ようやっと深く息を吐き出せた。

「じゃ…ふぁる、さん」
「はい」
「……ごめんなさい」

小さく謝るとギュッと苦しげにジャーファルの眉間に皺が刻まれた。繰り返し毎夜悪夢に襲われ自我が狂い出すアリババをつなぎ止める行為…それはアリババを閉じ込めていた檻から無理矢理連れ出した日からずっと続いている。

「ジャーファル」

依然としてアリババの背を擦り続けていると、重厚な扉が開かれジャーファルの名が呼ばれた。そちらに二人して視線をやると、そこにはこの国の王たる人物が静かに立っていた。

「シン」
「夜分にすまない。アリババくんは…まだ駄目か」
「ええ」

寝台上で寄り添うアリババとジャーファルをどこか難しい顔をして見詰めるシンドバッド。悪夢に魘されロクに寝付けないのだとジャーファルからアリババの様子を聞いていたシンドバッドは、就寝の時間は常にジャーファルを傍らに置くようにし、且つ自身も時間がある時には様子見に立ち寄るようにしていた。深夜アリババにあてがった部屋へ足を運ぶと、殆どの確率でアリババをあやすジャーファルという状態を目にする。一度飛び起きたアリババは寝たがらずジャーファルもアリババに付きっきりとなるため、二人は目に見えて日に日に寝不足と疲労により憔悴してきていた。シンドバッドはそんな現状を憂えていたが、アリババをあの檻から引っ張り出したことに対しては後悔など微塵もしていない。それはそれを望んだジャーファルにもいえることで。

「アリババくん?」

シンドバッドが思考に沈んでいると、不思議そうなジャーファルの声が聞こえた。そちらを視界に入れると、アリババがジャーファルの服をきゅっと掴んでいるのが見える。

「ジャーファルさん…シンドバッド、さん」

青白い顔と潤み泣きそうな瞳。けれどどこか縋りつつも思いを秘め篭めたソレにジャーファルとシンドバッドは息をのむ。

「…アリババくん、無理はしなくても」
「ちがうんです、俺が…俺の勝手なお願いなんです」

ジャーファルが宥めるように声を掛けるがアリババは弱々しくも確固たる意思を持って首を横に振った。それに困惑するジャーファルは二の句を告げられず唇を閉じたが、その代わりにシンドバッドが息を吐き出しつつ口を開いた。

「良いだろう」
「ッ、シン!」

途端咎めるようにジャーファルが鋭い音を部屋に響かせたが、それがアリババくんの願いだろうと静かな表情で応えた。ジャーファルは僅かに震える唇を何度か開閉したが、やがて諦めたように目を閉ざした。

「本当に良いんだね?」
「はい……ごめんなさ、い」

ジャーファルの服を掴んでいた手はいつの間にか外され、寝台に座るアリババの膝の上で両の手ともがキツく握られている。シンドバッドはそんなアリババのもとまで歩み寄り、自身も寝台へと乗り上げアリババの髪を梳いた。

「そんな顔をさせたくて俺とジャーファルは此処に居る訳じゃないよ」
「っ、」

大丈夫だからと微笑を浮かべるシンドバッドにアリババはほろほろと涙を零し出す。後から後から溢れるそれをシンドバッドは手で優しく拭い、アリババの細い肢体を布の海にゆっくりと横たえた。ジャーファルはちらりとシンドバッドに目配せされ、一度唇を引き結んでからシンドバッドの隣へと移動した…。























「ッぁ、ぅ…ふ、」

ぐちゅりと自身の後孔から立つ音にアリババは背筋を震わせる。突き立てられた雄を難無くおさめて淫らに食む様はただただ男の欲を刺激して。

「ひ、…ッぁ!やぁあ…っ」

背面座位の体勢で後ろからシンドバッドに抱えられ、硬く熱い性器で奥の奥まで抉られると頭がおかしくなりそうになる。ガクガクと痙攣する身を大きな手で支えつつも容赦なく抽挿を繰り返すシンドバッド。

「アリババくん、顔を上げて下さい」
「じゃ、ふぁ…ッ、ンン」

そっと顎に添えられた指に促されるままジャーファルの方へと顔を持ち上げれば、そのまま流れるように唇を合わせられる。くちゅくちゅと脳髄を犯す水音に頬へと熱を集めるアリババ。そんなアリババを目の端に捉え、ふっと小さく笑ったジャーファルはそのまま深く深く唇を重ねていく。

「ふむ、妬けてしまうな」
「ンンッ!?」

アリババがジャーファルとの口付けに蕩けつつ夢中になっていると、突然動きを止めていたシンドバッドが下から強く突き上げてきた。

「ん、ひ…ッ、ぃ!ゃ、や…ぁ、あー…ッ!!」

ゴリゴリと無慈悲に内壁を擦られ削られアリババは咽び泣く。大粒の涙が溢れる琥珀の瞳は焦点が合っていない。それを正面から見ていたジャーファルは自然に非難を篭めた視線をシンドバッドに送るが、行為の制止行動は決してしない。

「ぁ、…ッひ、…っ」

息も絶え絶えなアリババは好きに揺さぶられるままで、やがて力無く吐精し気を失った。後を追うようにシンドバッドも数度アリババの中を行き来してから性器を引き抜き達した。無言で傍観していたジャーファルはしばらくしてから近くに置いていた布でアリババの身体を丁寧に拭い出し、綺麗に衣服を整える。シンドバッドはシンドバッドであらゆる体液に塗れた寝台を片付け、ジャーファルがアリババを抱き上げている間に元通りに調え終える。行為を繰り返す内に何とはなしに決まった各々の役割分担。最後にアリババを起こさないように寝台に横たえてお終いとなる。








ゆるりと手を伸ばし、すうっと眠りについたアリババの頬をスルリと指で撫でる。ジャーファルの壊れものでも扱うようなその動きにシンドバッドが苦笑した。

「怒ってるか?」
「……いいえ」
「嘘をつくな」

何度か行ってきた三人での行為だが、実はシンドバッドはアリババと身体こそ繋げているがキス等の触れ合いだけはしていない。行為以外の普段での生活でも最低限の接触に留め、なるべくアリババに関わることはジャーファルに任せるようにしている。…そして逆にジャーファルはアリババと一番近く且つ触れ合っているが、身体を繋げたことは一度もない。頑固な男だとシンドバッドが苦く笑いたくなるのも無理は無い。

アリババが夜闇の恐怖に怯える中、身体を繋げて現実を摺り合わせ、そして何より眠れるようにと始めたこの行為。一対一では以前の主人を思い出し半狂乱になるアリババのため三人で臨むようになった。自身に付き合い疲労を蓄積していくジャーファルに申し訳なく感じているのか、いつからかアリババの方から求めだしてきて。シンドバッドは彼が望むのならと動くが、ジャーファルの複雑に絡んだ心情も分かっている。分かっているが、今はまだどうすることも出来ないのが現状なのだ。

「男の嫉妬は醜いぞジャーファルくん」

空気を変えようと笑い混じりにそう口にすると射殺されそうな瞳と出会った。あ、マズいと思った時には既に遅く、氷点下まで落ち込んだジャーファルの機嫌に後々どんな仕返しがくるのかとシンドバッドは戦々恐々とするばかり。…しかしそんな張り詰めた空気はジャーファルの吐息一つで霧散した。

「嫉妬…いいえ違います。これは自分への苛立ちです」

勿論嫉妬をしていないとは言わない。だが何より腹が立つのは不甲斐ない己で。

「シンには感謝しています。私一人では…」

私一人ではきっと、
続くことのない言葉はしかし、確かにシンドバッドに届いた。いつになく弱気な彼は、けれどいつだってこの少年を想うほどに儚く。自分には何も言えないと静謐な空間で寄り添う二つの影を横目に、シンドバッドはゆっくりと部屋を出て行った。











今は夢も見ずに眠ればいい
そしていつか…いつかはきっと、幸せな夢を


(私が君に幸せな夢をあげることができたなら…)



嗚呼そうすることができたなら
できたなら、いいのに










ジャーファルはひとつ水滴を滲ませ、暗い世界でただ少年に寄り添い続けた。










***






月水様、この度は5000打企画にご参加下さり誠にありがとうございました!


モブアリ、ジャファアリシンアリ3Pでアナタとワタシで窒息waltzの続き且つシリアス(裏あり)…との事でしたが、こんなので宜しいですかね?認識の違いがあれば本当に申し訳ないんですが。裏ありということで、裏はモブにかかるのか3Pにかかるのか悩んだ末に3Pになり…あ、でも裏要素少なくてすみません!更にモブアリ要素薄くてすみません!苦情等あればいつでもどうぞ!!(土下座)

一応このお話はアナタとワタシで窒息waltzの続編となりますが、こういった未来もあるかもねという…そんなアナザーストーリーということで。


それでは本当にありがとうございました!(*´▽`*)